「好きこそ物の上手なれ」を信じていなかったのだが。

 「好きこそ物の上手なれ」とはいうものの、職業を選択するときに、この言葉は当てにしないほうがいいと昔から考えていました。

この仕事がしたいと就職したとしても、間もなく現実とのギャップを知ることになる。
それでも忍んで何年も鍛錬をしているうちに、心がその仕事に寄り添うようになってくる。
逆に、意に染まない職業に付いたとしても、いずれ同じような幸福な状態になることも多い...

ところで、「上手なれ」の言い回しに以前から違和感があった。
なぜ「上手なり」ではないのだろうか、「なれ」とはまさか命令形じゃないだろうから、じゃあなんなんだろうと、疑問に思っていた。

いま調べたら、

「こそ」〜「なれ」という形の係り結びです。係り結びは、内容を強調するためや疑問を表すために使われます。「こそ」で直前の言葉を強調し、文末を「なり」の已然形である「なれ」で結んでいる形です。

ということで、文法的に正しいのだそうです。
ようやくすっきりしました。
(古文は昔から苦手なので、実はわからない(^^;んだけど、そういうことにしとこう。)

閑話休題。

最近読んで、「好きこそ物の上手なれ」で、工夫を重ねている人たちはすばらしい成果をあげるものだなあと感じた書籍をご紹介します。

まずは、「いろどり~おばあちゃんたちの葉っぱビジネス」(立木写真館発行/2006年/自費出版)。

有名な徳島県上勝町の「葉っぱビジネス」。

里山の葉っぱや花を収穫し、料理のツマとして出荷する。
地域おこしの新産業として成功した。
高齢者に生きがいと高収入を生み出したことも特筆される。

数々の書籍や記事でも紹介され、映画としてドラマ化されたこともありました。

本書は、徳島県の著名な立木写真館123周年記念出版として、いろどりで働く高齢者の写真と記事で編集されています。

写真集の自費出版。
なのに、初版時はなんと1万部が完売で、2版を発行されたとのこと。
存在を以前から知ってはいましたが、たまたま図書館で見つけて読むことができました。

ビジネスとしてのおもしろさは言うまでもありませんが、今回強く感じたのが「好きこそ物の上手なれ」。

取材を受けたおばあちゃんたちは、それぞれの知識、経験と「好き」な分野を追求することで、異なる成功を収めていることに感心しました。

下坂さん(出版時81歳)は、器用な手の持ち主。
さまざまな葉っぱの細工物を編み出してきました。

笹舟は子供の時に作って遊んだのを思い出して。花籠は、卒業式の時につけてくれるリボンを思い出して作ったり、升だったら節分に豆入れるのにええかなと思うたり、鶴亀はおめでたいときに使うてくれるかなとか。

菖蒲さん(81歳)は、農家としての長年の知恵と知識で、葉っぱの木を育てている。

どこへでも植えたんではアカン。その木ごとに適当しとるところに植えるのがええんよ。梅木はちょっと日陰がええし、桜はお陽さんがよう当たるところがええんよ。どうせあんまりきれいな紅葉にならんもみじの木だったら、緑がきれいな葉を取ろうと思うだろ。ほしたら、日陰のほうが、陽に焼けんし、台風みたいな強い風のときも傷まんから、ずーっと谷底の方に植えとるんよ。紅葉がキレイな木は陽がよう当たるところに植えてな。

高尾さん(61歳)は、トップクラスの売り上げを誇るが、一朝一夕にできたものではない。情報を読む能力を発揮した積み重ねだ。

売れ筋にも流れがあって、今年ようけ売れたのが来年売れるかって言うたらそうでない。板前さんの感性にもよるしね。それをファクスやパソコンの情報を見て考えるんです。来年売れそうなもんを今年植えたり。(中略)『晴ちゃんは高あても安うても出しよる』って人には言われるけど、計画的に出して、流れを見るのよ。ある時期、あ、この品目動き出したなっていうのが分かる。そしたらもう二ケース、三ケースって出していくんよ。あと、人の出したものの値段が全部ファクスでわかるでしょ。自分の商品の値がよそさんのより安かったら、どこが悪かったのかなって考えれる。隣との違いを知らなんだら天狗になる可能性もあるしね。

実は、私は10年ほど前に機会を得て、ひとり当地を訪れて、関係各所を視察させていただいた。
驚きの連続でありました。
だれでもできそうな仕事に思えるので、模倣する地域もいくつか出現したそうですが、いずれもうまくいかない。
神は細部に宿る。
真似してうまくいくものではないことがよくわかりました。

もう1冊は、「山の上のパン屋さんに人が集まるわけ」(わざわざ代表取締役・平田はる香・著/2023年/サイボウズ式ブックス)。

これは近著ですが、新聞で書評をみて、おもしろそうだと購読しました。「はじめに」から引用します。

一介の主婦が1人で始めた、パンと日用品の店。 移動販売と自宅の玄関先での販売からスタートして創業14年目になる 「わざわざ」は、2017年に法人化し、今では3億円の売上がある企業へと成長しました。
よく「平田さんは、やりたいことがたくさんあっていいね」と言われます。
山の上で始めた小さなパン屋が大きく成長したという事実を見て、「田暮らしで夢を叶えた成功者」と思われているのかもしれません。
(中略)
なので、最後まで読んでいただける「はじめに」を書かないといけないと思いました。
私の人生の前半戦は、といいますか、人生の3分の2ぐらいは挫折の連続で、いいことが1つもありません。友だちも全然できず、誰とも話が合いませんでした。
(中略)
パン屋を始めることになったのは、そんな、世の中の「ふつう」にうまく乗れなかった私が、唯一できそうなことだったからです。
(中略)
世の中には、違和感を覚えるできごとがたくさんあります。
パン屋は長時間労働・薄利多売がふつう、飲食業においてロスが出るのはふつう、質がいいものよりブランド名に惹かれる人がいるのはふつう。
働き方、お金の使い方、家族のあり方、会社のあり方・・・・・・。 
そういった生きる中でぶつかる自分の違和感に1つずつ向き合いながらつくってきたのが「わざわざ」です。
山の上のパン屋に人が集まってくださる理由は、もしかしたら「わざわざ」の正直すぎる姿勢にあるのかもしれません。
長時間労働がおかしいと思えば、そうしなくて済む製法を自ら研究したり、自分が作っているパンが人の健康を邪魔していると感じれば、そのパンを作ることを急にやめたり、意地悪なお客さんが来たらブログに「来ないでください」とあけすけに書いてみたり・・・。
(後略)

常識に囚われずに、思いを達成するために努力する。 「好きこそ物の上手なれ」とはこんなに強い力を発揮するのかと感心しました。
私もいま始めようとしているビジネスをそうしていこうと考えました。

ビジネスの経緯はこちらも相当におもしろいのですが、詳細は本書をご覧いただくことにして、いちばん私の心に響いたのは、次のような本書の姿勢です。

幾多の経営本が世の中に溢れる中で、私が本を書く意味が果たしてあるのだろうか。「辺境地で事業を始めてうまくいった事例」をノウハウとして書く意味はあるのだろうか。
自分に問うた結果、「ない」と思いました。
だから、この本では「心」を記そうと思います。
できるだけ忠実に私の心の変遷を描きたい。内実に沿った情景を忠実になぞるような言葉を選んで記すことができたならば、それは読んだ人の数だけ形を変え、誰かの役に立つことができるかもしれない。
そう思って、この本を書き記します。

2冊とも主要人物は女性でありました。

先の内閣改造で、首相は女性の閣僚登用を「女性ならではの感性を発揮してもらいたいから」と言ってのけました。
いまだにそのような性別を十把一絡げ的視点の発言をするのかと、唖然とさせられました。

私は30年になろうとする経営者人生において、一般に女性のほうが仕事ができる、と確信させられています。
それはおそらく「好きこそ物の上手なれ」を早くものにする人が多いからではないかと考えさせられました。
十把一絡げじゃなくて、そういう人が多いということです。

男性の多くは仕事に時間は割くけれども、余計なこと、例えば会社や上司の方針、市場環境、教科書的なスキルアップなどに振り回されがちだから、目的地に着くのが遅れる。
結局、仕事にかける有限のエネルギーが分散する。
私自身の反省でもあります。

photo by LORI KINGSLEY on Flickr